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株式会社吉開のかまぼこ

130年続いた会社は、一度止まった。それでも、かまぼこの味は終わらなかった

文・陣脇康平 jin

みなさんこんにちは、ラブカン編集長の陣脇です。ラブカンは、日本全国のLOVED COMPANYを紹介するメディアです。

会社の思想や文化、働く人の想い、事業に込められた背景を通して、条件だけでは見つからない「愛される会社」を紹介していきます。

今回取り上げるのは、福岡県みやま市で130年以上にわたり、かまぼこをつくり続けてきた株式会社吉開のかまぼこです。

ラブカン編集部が感じたLOVEDポイント

  1. つくりやすさを選ばず、8年かけて「入れない」を技術にした
  2. 休業した老舗を、血縁ではなく「残したい」という意思が継いだ
  3. 伝統をそのまま保存せず、次の時代に届く形で継承している

「入れない」は、簡単につくることを諦めることだった

一般的なかまぼこには、すり身をまとめやすくするリン酸塩や、弾力を補う卵白、でん粉などが使われることがあります。

吉開のかまぼこは、それらを使いません。

きっかけは、安心して食べられるかまぼこを求める地域のお客さまと、卵アレルギーの子どもにも食べさせたいという声でした。3代目の吉開喜代次さんは、約8年の試行錯誤を経て、完全無添加のかまぼこを完成させました。

完全無添加のかまぼこづくり

つなぎに頼れないぶん、魚の質や温度、塩を入れるタイミング、練る時間、寝かせる時間まで、その日の状態に合わせて調整する必要があります。

無添加という言葉だけを掲げるのではなく、便利さを手放した穴を、職人の技術で埋めていく。

何かを加えて品質を安定させるのではなく、「入れない」を守るために腕を磨く。便利さより誠実さを選び続けた、その姿勢に惹かれます。

売れていたのに、会社は一度止まった

農林大臣賞を何度も受賞し、皇室への献上実績もある。無添加のかまぼこを待つお客さまもいた。

それでも2018年、吉開のかまぼこは後継者不在によって操業を停止しました。良い商品があり、愛してくれる人がいても、つくる人がいなくなれば会社は続かない。

老舗の廃業というと、需要や経営の問題を想像します。けれど、吉開のかまぼこが突きつけるのは、価値があるだけでは残らないという現実です。

休業中にも、かつてのお客さまから再開を望む声が届いていたといいます。商品は市場から消えても、その味は誰かの記憶の中で生き続けていました。

その声が残っていたからこそ、一度止まった会社に、もう一度未来をつくる余地が生まれました。

血縁ではなく、「なくしたくない」が後を継いだ

再生のきっかけをつくったのは、創業家の親族ではありません。

当時、福岡大学の学生だった林田茉優さんです。後継者問題をテーマにしたプロジェクトで吉開のかまぼこと出会い、事業承継者を探す活動を始めました。買い手探しや地域との調整を重ねた末、2021年にフロイデ株式会社による買収が決まり、林田さん自身が4代目社長に就任しました。

4代目社長の林田茉優さん

継ぐために育てられた人でも、かまぼこ職人でもない。それでも、「この技術をなくしたくない」という思いが、家業の外にいた一人を後継者にしました。

事業承継は、同じ名字の人へ会社を渡すことではないく、何を未来へ残したいのかを見極め、その価値に責任を持つ人へ託すこと。130年の歴史が、血縁ではなく意思によってつながったところに、希望を感じます。

守るために、言葉をつくり直す

4代目の林田さんが大切にしているのは、先代たちが積み重ねてきた価値を、一つひとつ言葉にすることです。

現在掲げるコンセプトは、「原料の原料まで極めた自然派かまぼこ」。

魚や塩、みりん、昆布だしだけでなく、加工済みのすり身や調味料の中身まで確かめる。同社はこのコンセプトを、単なる宣伝文句ではなく、お客さまとの約束として位置づけています。

昔と同じ製法を残すだけでは、その価値は初めて出会う人には伝わりません。なぜ添加物を使わないのか。なぜ商品数を簡単に増やせないのか。何を守り、どこは変えていくのか。職人の中にあった暗黙のこだわりを、次の時代にも共有できる言葉へ変えていく。

伝統を守るとは、過去をそのまま保存することではなく、現代の人が受け取りやすい形に翻訳することなのだと思います。

読み終えて、もう一度。

ここまで読んで、最初に感じた3つのLOVEDをもう一度。

  1. つくりやすさを選ばず、8年かけて「入れない」を技術にした
  2. 休業した老舗を、血縁ではなく「残したい」という意思が継いだ
  3. 伝統をそのまま保存せず、次の時代に届く形で継承している

現在、同社が製造する中心商品は、エソを使った「古式かまぼこ」です。

かつてのように商品数を増やしたい思いはありながら、海の環境変化などによって、無添加製造に適した良質な魚を安定して確保する難しさがあります。そのため、品質を満たせない商品を無理に復活させず、一つずつ課題を解決しながら開発を続けています。

吉開のかまぼこの古式かまぼこ

会社を再生する以上、売上を伸ばし、商品を増やしていくことも求められます。それでも、復活を急ぐあまり、先代から受け継いだ約束まで薄めることはしません。

残したかったのは、吉開という名前だけではなく、この会社でなければつくれない味と姿勢そのもの。一筋縄にはいかない事業承継ではありますが、福岡・みやまの地で、若き女性社長が130年企業の続きを大胆に描いています。

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