頼まれていないことまで、やる。藤原印刷に70年受け継がれる「心刷」という仕事
みなさんこんにちは、ラブカン編集長の陣脇です。ラブカンは、日本全国のLoved Companyを紹介するメディアです。
会社の思想や文化、働く人の想い、事業に込められた背景を通して、条件だけでは見つからない「愛される会社」を紹介していきます。
今回取り上げるのは、長野県松本市に本社を構える藤原印刷株式会社です。
ラブカン編集部が感じたLOVEDポイント
- 「心刷」という言葉を、品質だけでなく相手への気づかいにまで落とし込んでいる
- 効率や前例よりも、目の前の人の「つくりたい」をどう実現するかを考えている
- 印刷会社という枠に閉じず、本屋、イベント、出版まで「本をつくるよろこび」を広げ続けている
一文字に、心を込める
藤原印刷には、創業者から受け継がれている言葉があります。
「心刷(しんさつ)」
一文字一文字に心を込め、一冊一冊を大切につくる。
創業者の藤原輝さんは、手書きの原稿をタイプライターで打ち直す仕事をしていた頃、原稿から伝わってくる書き手の熱量まで活字に込めたいと考えていたそうです。
印刷技術が進化し、タイプライターから大きな印刷機へ変わっても、この考え方は残り続けています。面白いのは、「心を込める」が精神論だけで終わっていないことです。
藤原印刷では「心刷」を、品質への徹底したこだわりと、相手への細やかな気づかいの両方だと捉えています。技術だけでもない。やさしさだけでもない。その二つが重なったところに、藤原印刷らしい仕事があります。
頼まれていないことまで考える、「青字」の文化
藤原印刷には、「青字」という少し変わった文化があります。
本づくりでは通常、著者や編集者が原稿に赤字で修正指示を入れますが、藤原印刷ではその修正作業中に、誤字や脱字、修正漏れなど、指示されていないけれど気になったことを青鉛筆で書き添えて返す文化が、何十年も続いてきました。
言われた通りに直せば、仕事としては成立します。それでも、「ここは大丈夫だろうか」と一歩踏み込む。藤原印刷自身も、これを「余計なお世話になるかもしれないが、一助になれるかもしれない」という姿勢だと説明しています。
私は、この「青字」に会社の文化がよく表れていると感じました。自分の担当範囲を終わらせることより、相手にとって本当に良いものができることを優先する。
小さな気づかいですが、その積み重ねが「またこの人たちにお願いしたい」という信頼につながっているのかもしれません。
「できない」は、やってから考える
藤原印刷が近年力を入れてきたのが、個人や小さなチームによる自由な本づくりです。
本文用紙に穴を開ける。段ボールを表紙にする。通常とは異なる紙に写真を美しく印刷する。そんな、一見すると難しそうな依頼にも向き合ってきました。もちろん、すべてが最初からうまくいったわけではありません。現場では何度も試し、失敗し、別の方法を考える。その繰り返しによって、少しずつできることを増やしてきたといいます。
印象的なのは、藤原章次さんの考え方です。技術的に不可能なら「できない」と伝える。でも、まだ試してもいないことを、最初からできないとは言わない。効率だけを考えれば、前例のある仕事を繰り返した方がいい。でも、難しい相談に向き合うたびに現場の経験が増え、技術も広がっていく。
藤原印刷にとって無茶な注文は、面倒な仕事ではなく、会社のできることを一つ増やす機会なのだと思います。
たくさん刷るより、一人に寄り添う
印刷会社は、たくさん刷るほど効率が上がる製造業です。しかし、出版・印刷市場が縮小していくなか、藤原印刷が選んだのは単純な効率化だけではありませんでした。
大切にしたのは、「顧客満足度」。
「たくさん刷る」は印刷会社側の都合かもしれない。それよりも、一人ひとりの「つくりたい」に向き合おう。藤原印刷は、その方向転換を「製造業のサービス業化」と表現しています。
だから、本の仕様が何も決まっていない段階から相談に乗ります。「どんな本をつくりたいですか?」だけでなく、そもそも「なぜ本をつくりたいんですか?」から聞いていく。
完成したデータを受け取って印刷するだけではなく、作り手自身もチームの一員として本づくりの過程を楽しめるように伴走しています。
印刷することが目的ではない。その人が「つくってよかった」と思えるところまでが仕事。「つくるよろこびをつくる」という藤原印刷の言葉は、そんな仕事のあり方から生まれているように感じます。
印刷会社なのに、印刷だけをしない
藤原印刷は、本を印刷して納品したら終わり、という会社でもありません。
2018年には書籍販売サービス「PTBS」を開始し、2019年には工場を開放する「心刷祭」を開催。2023年には、個性を宿した自由な本づくりを「クラフトプレス」と名付け、その文化自体を広げる活動を始めました。
そして2026年には、ついに出版部を設立。印刷を請け負う立場から、自ら本を発行し、販売する領域へも踏み出しています。
面白いのは、こうして「クラフトプレス」という強みを築きながらも、自分たちをその枠に閉じ込めようとしていないことです。
藤原隆充さんは、自分たちで会社にラベルを貼ると、新しいチャンスを失ってしまうという考えを語っています。藤原印刷の生存戦略は、特定の何かになりきることではなく、変化し続けられることなのだそうです。
目の前に「つくりたい」という人がいるなら、自分たちに何ができるかを考える。振り返れば、タイプライターから始まり、出版印刷、電子書籍、クラフトプレス、本屋、イベント、そして出版へ。変わり続けているように見えて、中心にあるものはずっと同じなのかもしれません。
一文字に心を込めることから始まった会社が、今は誰かの「つくりたい」という心そのものに寄り添っている。
それが、藤原印刷が70年以上かけて育ててきた「心刷」なのだと思います。
読み終えて、もう一度。
ここまで読んで、最初に感じた3つのLOVEDをもう一度。
- 「心刷」という言葉を、品質だけでなく相手への気づかいにまで落とし込んでいる
- 効率や前例よりも、目の前の人の「つくりたい」をどう実現するかを考えている
- 印刷会社という枠に閉じず、本屋、イベント、出版まで「本をつくるよろこび」を広げ続けている
ラブカンでは、日本全国にある「愛される会社」やLovedな取り組みを紹介していきます。たくさんのLoved Companyとの出会いが、あなたの価値観を少し広げ、自分のものさしで生きるきっかけのひとつになれば嬉しいです。
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