本文へスキップ
側島製罐株式会社

社長も評価も手放した。120年企業・側島製罐の「みんなで経営」

文・陣脇康平(じん)

みなさんこんにちは、ラブカン編集長の陣脇です。ラブカンは、日本全国のLoved Companyを紹介するメディアです。

会社の思想や文化、働く人の想い、事業に込められた背景を通して、条件だけでは見つからない「愛される会社」を紹介していきます。

今回取り上げるのは、愛知県で1906年から缶をつくり続けてきた側島製罐株式会社です。

この会社のことを、誰かに。

ラブカン編集部が感じたLOVEDポイント

  1. 100年以上存在しなかった経営理念を、働く人たち自身でつくった
  2. 役職や指示命令、評価を手放し、一人ひとりを「小さな経営者」として信じている
  3. 缶を単なる容器ではなく「人の想いを預かる器」と捉え、事業と組織を同じ思想でつないでいる

100年以上なかった「会社の言葉」を、みんなでつくる

側島製罐には、長い間、経営理念がありませんでした。

2020年に現在の代表取締役・石川貴也さんが入社した当時は、20年にわたって売上が減少し、直近3期は赤字。トップダウンの風土が強く、社員同士の関係も決して良い状態ではなかったといいます。

Mission Vision Value

会社を変えるために、石川さんが最初に向き合ったのが「自分たちは何のために働くのか」という問いでした。

ただし、経営理念を石川さん一人で決めたわけではありません。社員から策定メンバーを募り、約1年かけて対話を重ねながら、自分たち自身の言葉でMission・Vision・Valuesをつくっていきました。

そこで生まれたVisionが、「宝物を託される人になろう」です。会社の理念とは、経営者が決めて社員に覚えてもらうもの。そんなイメージもありますが、側島製罐では逆でした。

自分たちで言葉をつくったからこそ、自分たちで守り、育てていく。

理念を「会社から与えられるもの」ではなく、「自分たちのもの」にしたことが、その後の大きな組織変革につながっていきます。

「社長」という役職まで、なくしてしまった

側島製罐の組織には、現在「社長」という社内の役職がありません。

石川さんは法律上の代表取締役ですが、社内では特別な肩書で呼ばれるのではなく、一人のメンバーとして働いています。役職だけでなく、従来型の指示命令や評価もなくしていきました。

SOBAJIMA can COMPANY 集合写真

その代わりに大切にされているのが、一人ひとりが「小さな経営者」になることです。誰かから仕事を与えられるのを待つのではなく、自分で必要な役割を考える。

社内には、製造や営業といった日常業務だけでなく、MVVを育てるチームや職場改善など、社員の意思から生まれたさまざまなプロジェクトがあります。立ち上げるための細かな規制もなく、手を挙げた人たちが活動しています。

もちろん、「上司がいない=好き勝手に働ける」ということではありません。むしろ、自分で考える自由があるからこそ、自分の判断に責任を持つ必要があります。

人を管理するのではなく、その人の良心を信じて託す。制度をなくしたという事実以上に、そこまで人を信じようとする姿勢に、側島製罐らしさを感じます。

給料も、「評価されて決まるもの」ではない

さらに驚いたのが、給与の決め方です。側島製罐では2023年から「自己申告型報酬制度」を導入しています。一般的な人事評価では、過去の成果を上司が評価し、その結果によって給与が決まります。

側島製罐は、この考え方を逆転させました。それぞれがこれから担うミッションと報酬を自ら宣言し、その価値を自分の仕事によって証明していく。

つまり給与を、過去へのご褒美ではなく、未来への先行投資として捉えています。評価をなくしたのも、「楽をしてほしい」からではありません。評価されるために働くのではなく、自分が正しいと思うことに向き合ってほしいから。

誰かの顔色ではなく、自分の良心と、みんなでつくったMVVを判断基準にする。側島製罐がつくろうとしているのは、自由な会社というより、自律を信じる会社なのかもしれません。

缶は、「想いを預かる器」

側島製罐のVisionである「宝物を託される人になろう」。この言葉には、缶メーカーだからこその意味があります。缶を単なる商品を入れる容器とは捉えていません。

たくさんの銀色の缶が積まれている

お客様の大切な商品が入ることもあれば、誰かの思い出の品がしまわれることもある。だからこそ、「缶は人の想いを預かる器」だと考えています。その思想を象徴する商品の一つが、「Sotto」です。

子どものへその緒やお気に入りだったもの、写真など、成長とともに増えていく小さな思い出をしまっておく「親子の絆を深める缶」として生まれました。

ただ缶をつくって売るのではなく、「この缶には、誰のどんな想いが入るのか」まで考える。そんな仕事への向き合い方が、「宝物を託される人になろう」というVisionにつながっています。

そしてそれは、組織づくりにも重なります。缶が誰かの大切なものを預かる器なら、会社もまた、一人ひとりの大切な人生を預かる器なのかもしれません。だから、人を会社の都合だけで管理しない。一人の人間として信じ、その人自身に仕事を託していく。

側島製罐では、つくっているものと会社のあり方が、同じ思想でつながっているように感じます。

100年前の言葉と、今のVisionがつながった

最後に、とても好きなエピソードがあります。「宝物を託される人になろう」というVisionをみんなでつくった後、側島製罐では創業当時の資料が見つかりました。

そこに記されていた創業者の言葉が、「商人は信用が財産」だったそうです。現在のメンバーは、この言葉を知ってVisionをつくったわけではありません。それでも、100年以上離れた二つの言葉が「信用」や「託される」という価値観で重なった。

経営理念そのものは存在していなかったとしても、大切にしてきたものは、日々の仕事のなかに残り続けていたのかもしれません。「人から大切なものを託されるにふさわしい仕事をする」という根っこの部分は、100年前からつながっていたのだと思います。

受け継ぐものは、昔のやり方ではなく、そこに込められた信念。

120年という歴史の続きを、働く一人ひとりが「小さな経営者」としてつくっている。そんな会社のあり方に惹かれました。

読み終えて、もう一度。

ここまで読んで、最初に感じた3つのLOVEDをもう一度。

  1. 100年以上存在しなかった経営理念を、働く人たち自身でつくった
  2. 役職や指示命令、評価を手放し、一人ひとりを「小さな経営者」として信じている
  3. 缶を単なる容器ではなく「人の想いを預かる器」と捉え、事業と組織を同じ思想でつないでいる

ラブカンでは、日本全国にある「愛される会社」やLovedな取り組みを紹介していきます。たくさんのLoved Companyとの出会いが、あなたの価値観を少し広げ、自分のものさしで生きるきっかけのひとつになれば嬉しいです。

「この会社、面白い」

「この働き方、もっと知られてほしい」

「うちの会社にも導入したい!」

そんな事例があれば、ぜひ教えてください。

参照サイト

この会社のことを、誰かに。